手のひら  てのひら         −望美Side−












「今、なんて言ったんですか…?」


あまりの衝撃に、思わず望美の声が震える。


「…元の世界へ戻れ、と言った」


冷たく放たれた言葉。


胸に突き刺さるようなその言葉に涙が滲んだ。


「嫌です! 私は泰衡さんと一緒にいたい…!」


「だめだ」


「どうしてですかっ!?」


思わず声を荒げてしまう。






離れたくない。

一緒にいたい。

例えその道に果てが見えていたとしても、愛する人と共にいたい。

最期を迎えるその時は、彼の隣にいたい。

そう、思う。






ゆっくりと、望美はその顔を上げた。


泰衡はいつものように眉間に皺を寄せ、こちらを見つめる。


だがその瞳はとても冷たく…厳しい。


「私は…っ」


ぎゅっと、拳を握り締める。


「私は、あなたの隣にいたい…! あなたと一緒に、戦い続けたい…っ」






あなたが好きだから。






震える声で、精一杯に言の葉を紡ぐ。



彼が好きで好きで、たまらなくて。

この想いが叶わなくても、ただ傍に居られるだけでいい。

ただこの隣で彼のために刀を振るえるなら、それでいい。

それが、たった一つの願い。






「いっしょに…居させてください…!」


「…女子など足手まといだ」


「足手まといになんてなりませんっ! 私は…っ」


「くどい!」


初めて声を荒げる泰衡に、望美は思わず身体をびくんと震わせた。


「…八葉たちは、どんな状況でもその身を呈して貴女を守るだろう。
それは時に致命傷となりかねん」


「泰、衡さん…」






もうこの世界に、神子は必要ない。






もう一度冷たく呟かれた言葉。


望美の瞳からは堪えていた涙が一気に溢れ出した。


「わたし、は…」


「貴女は必要ない。さっさと元の世界へと戻られるべきだ。
そうでなければ、余計な犠牲者が増える」






望美は何も言い返せなかった。

怨霊がいなくなった今、確かに神子など必要ないのかもしれない。

こんな状況で、自分に出来ることなどないのかもしれない。

そう考えたら、自分は本当にただの足手まといかもしれない…と、そう思ってしまった。



それでも。






「…どうしても、一緒にいてはいけないんですか…?
その隣に居ることも、許されないんですか…?」






「……そうだ」






さらりと、冷たい風が吹いた。

冷え切った風が望美の髪を靡かせる。






「…皆にはすでに伝えてある。貴女は早く帰ることだ」


ふわりと、泰衡のその身体が望美の横をすり抜ける。


泰衡は、振り返らなかった。


その大きな背を、望美は見つめる。






本当に、愛していた。

誰よりも何よりも大切だった。










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「泰衡さん…っ!!」


ふいに、望美は飛び起きるように身体を起こした。


辺りを見回せば、元の世界の自分の家だ・


窓の外を見るとまだ外は暗い。


「ゆ…め…?」


望美は、大きく息を吐いた。


額には汗が滲んでおり、瞳からは涙が零れ落ちている。






あれはどこかの山中だった。

傷だらけの泰衡が、自分に向かって手を伸ばしていた。

自分もその手を取るが、その瞬間に辺りを眩い光が包み込んだ。



夢と呼ぶにはとてもリアルすぎて、現実と呼ぶにはとても儚すぎる。

それでも、泰衡は笑っていた。

望美の顔を見た瞬間に、安堵したように笑みを浮かべていたのだ。






「泰衡さん…?」


望美は、手のひらを見つめた。







この手に残ったものは、

戦った日々の血に塗れた罪と

愛する人の優しい温もりだけ。























またもや久しぶりに切なめ…というかかなり暗いお話を書いてみました。

弁慶ソング「玲瓏なる覚悟よ」の泰衡Verみたいになっちゃいましたが(笑)
これは望美Sideなわけですが、泰衡Sideとあわせて読んでいただけたら嬉しいですv
























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